脳静脈血栓症 NEJM review
脳静脈血栓症についてのNEJM review(N Engl J Med 2021;385:59-64.)をまとめました.
Anatomy and Pathophysiology

a statement for healthcare professionals from the American Heart Association American Stroke Association.
Stroke 2011;42:1158-1192.
血栓が静脈洞→皮質静脈に進展することはあるが,皮質静脈単独の血栓は稀.
Clinical Syndromes
脳静脈血栓症では,「頭蓋内圧亢進症」「局所神経症状」 を呈する.
頭蓋内圧亢進症
頭痛
静脈洞血栓症の70-90%で,急性〜亜急性の頭痛を認める.
性状は時間〜日単位で増悪する激痛で,頭頂部の限局痛は稀だが特異的.
拍動性頭痛を呈することもあるが,片頭痛患者は経験から通常の片頭痛と区別できる.
咳や前屈,頭の動きで増悪する.
くも膜下出血に特徴的雷鳴頭痛を訴える患者もいる.
乳頭浮腫
数日〜数週間のうちに発症することがある
その他
両側外転神経麻痺が現れることもある(稀)
局所神経症状
巣症状
皮質静脈血栓症の約半数で生じる(静脈洞血栓症では神経学的所見は正常なことが多い).
例)Trolard静脈周囲(前頭葉)梗塞:下肢麻痺/片麻痺
Labbe静脈周囲(側頭葉)梗塞:失語/錯乱
多発性の静脈洞・深部静脈閉塞では,脳症・昏睡をきたすことも少なくない(頭蓋内圧亢進も伴う).
痙攣
発作は変動的・可逆的で,前兆を感じることもある.
発症後≦1週間で34%に発作が発生し,重積発作となることもある.
その他
病巣によって様々な局所症状を呈する
例)深部脳静脈:眠気・昏迷(両側視床障害),閉塞性水頭症など
海綿静脈洞:眼窩周囲・前額部痛,脳神経麻痺(Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ1,Ⅴ2,Ⅵ),脳幹・小脳症状(脳底静脈洞に波及)
Causes
■全身性疾患/状態
例)腺癌,Behcet病,血液疾患(真性多血症,血小板減少症,白血病,鎌状赤血球症)/高度脱水,妊娠・産褥期など
通常,脳静脈血栓症を発症する前に明らかになっている
■頭頸部疾患
例)頭蓋外傷,静脈洞部の手術,細菌性髄膜炎,乳様突起炎など
■遺伝性疾患
例)抗リン脂質抗体症候群;APS,プロテインS/C欠乏症・遺伝子異常症,第V因子/プロトロンビン(Ⅱ)変異など
全体の22%.脳静脈血栓症を契機に判明することも.
■薬剤性
例)経口避妊薬,ホルモン補充療法(低エストロゲン製剤の使用でかなり減った),
稀に抗がん剤(タモキシフェン,シスプラチン,L-アスパラギナーゼ),EPO製剤.
■その他 ーHITー
①ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
血小板第4因子(platelet factor 4;PF4)とヘパリンが結合した複合体に対する抗体
ヘパリン投与後5-14 日頃に血小板数低下・DICを伴い,血栓症・梗塞後の二次性出血をきたすことがある.
②自己免疫性HIT(autoimmune HIT;aHIT)
ヘパリン非依存性に発症するHIT(spontaneous HIT syndromeを含む)
③ワクチン起因性免疫性血小板減少症(VITT)
SARS-CoV-2に対するアデノウイルスベクターワクチンに関連する症候群(TTSとして知られる)
●VITT
アデノウイルスベクターワクチンの稀な副反応
ChAdOx1 nCoV-19ワクチン:1/10万人
Ad26.COV2.Sワクチン:1/100万人
●COVID19合併症
SARS-CoV-2感染患者の1%未満,Covid-19関連脳卒中2/22例に脳静脈血栓症が報告された
いずれも血小板減少症と抗PF4抗体は見られなかった
Diagnosis
診断の基本は画像検査
脳静脈血栓症の画像所見
・単純CT検査:急性期血栓は高吸収となる
・単純MRI(T1WI/T2WI):血栓部位のflow voidが消失
・造影CT・MRV:静脈洞・皮質静脈血栓部位の血流が途絶

PanelA(pCT 矢状断):上矢状静脈洞・直静脈洞の高吸収域
PanelB(pMRI T1WI 矢状断):上矢状静脈洞のflow voidが消失
PabelC(eMRI T1WI 矢状断):上矢状静脈洞・直静脈洞の閉塞部に正常な造影効果がない
PanelD(eMRI T1WI 軸位断):上矢状静脈洞の閉塞部に empty delta sign

PanelA,B(MRI TOF 冠状断,矢状断):上矢状静脈洞,左横静脈洞の欠損
PanelC(pMRI FLAIR 軸位断):乳様突起炎による左乳様突起の空洞化
注意点
・TOFでは造影剤が必要ないが,造影検査と比べると感度が低い
・variation変化(横静脈洞狭窄,機能的狭窄など)は,血栓症と区別が難しい
Treatment
急性期治療
急性期治療にはヘパリンが広く使用されている
出血性梗塞でも,ヘパリンを使用
後療法
急性期治療後,ハイリスク患者には抗凝固薬を継続
DOACと比較した試験も出てきてはいるが,現状はワーファリンを推奨
継続期間に関するevidenceは不足,無期限の抗凝固療法が必要な場合もある
血管内治療
静脈洞血栓症に対する血管内治療は,(血栓溶解療法より)成績が良好
合併症管理
頭蓋内圧亢進:脳ヘルニア・頭蓋内圧亢進を示す患者には減圧術が有効
グルココイド・アセタゾラミド・マンニトールは検討不十分(脱水で血栓症を促進する危険性も)
痙攣発作 :発作後の抗てんかん薬投与は推奨されているが,予防投薬は推奨されていない
ほとんどが急性症候性発作として発症し,長期的な発作は稀
HIT/VITT
抗PF4抗体への影響が予測できないため,現状はヘパリン投与を避けるよう推奨(管内フラッシュも).
治療は①+②,難治例では血漿交換も行われている.
①IVIg
②非ヘパリン抗凝固薬:DOAC(リバーロキサバン・アピキサバン),フォンダパリヌクス・アルガトロバン
Outcomes
転帰と予後不良因子
CVT患者624人を対象とした研究では,中央値16カ月時点で8%が死亡し,2%が再発した.
予後不良因子は「抗PF4抗体陽性」「ワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)接種後」「≦18歳」
187人(ほとんどで治療介入あり)を対象とした研究では,CVT再発3%,頭蓋外血栓症(肺塞栓症など)再発10%.
ある研究では,女性の方が男性より転帰が良かった(血栓症の根本的な原因が異なるため?)
VITTは迅速に診断・治療が行われない限り,最大50%の死亡率.
Guidelines
European Stroke Organization(ESO)ガイドライン -2007-
診断後,早急に低分子ヘパリンを開始(HIT,VITTは適用外)
頭蓋内圧が亢進している場合は減圧術を検討
発作があった場合は抗てんかん薬を投与
脳浮腫に対するグルココルチコイド・アセタゾラミドは推奨しない
AHA-ASAガイドライン -2011-
CVTマネジメントのアルゴリズム
頭蓋内圧亢進時は,未分画 or 低分子ヘパリン→ワルファリン,アセタゾラミド(グルココルチコイドは推奨しない)

a statement for healthcare professionals from the American Heart Association American Stroke Association.
Stroke 2011;42:1158-1192.
日本の脳卒中治療ガイドライン -2021-
1.急性期において,未分画ヘパリンを用いた抗凝固療法が第一選択となる(推奨度B エビデンスレベル中).未分画ヘパリンの代わりに低分子ヘパリンの使用を考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低).
2.ワルファリンによる経口抗凝固療法を少なくとも3か月以上は継続することが妥当である(推奨度B エビデンスレベル中).
3.予後不良因子を有する脳静脈洞血栓症に対する血栓溶解療法および機械的血栓回収療法を行うには,十分な科学的根拠がない(推奨度C エビデンスレベル中).
4.実質病変を有し脳ヘルニア徴候を認める重症例においては開頭減圧術を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル低).
5.痙攣を生じた場合には抗痙攣薬の投与は妥当である(推奨度B エビデンスレベル低).
脳卒中治療ガイドライン 2021