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片頭痛 NEJM review

CATEGORY:medical
↻ 2022.01.11/2021.12.08

片頭痛についてのNEJM review(N Engl J Med 2020;383:1866-76.)をまとめました.

ーKey Clinical Points ー

●片頭痛はありふれた神経疾患で,世界中で推定10億人(主に女性)が罹患している.
●世界疾病負荷研究(Global Burden of Disease 2016)によると,
 片頭痛の障害度(障害調整生命年;DALY)は第2位で,他のすべての神経疾患を合わせたものより多い.
●診断基準はICHD-3により定められている.
  臨床像:中等-重度の反復する頭痛発作で,持続時間は4-72時間,典型的には片側・拍動性で体動により増悪.
     よくある随伴症状は,悪心嘔吐,光・音過敏.
     たまに前兆(可逆性の局所神経症状;視覚障害や片側性感覚障害)を呈する人もいる.
●片頭痛の病態解明は不十分だが,三叉神経から頭蓋内血管系(三叉神経血管系)への投射が関与していると考えられている.
  三叉神経血管系からの侵害受容信号は皮質領域に伝達されて,痛みとして認識される.
●さらに,発症に関与するシグナル分子が同定されたことで病態理解が深まり,治療法の開発が進んでいる.

 

Epidemiology

 

片頭痛の疫学的情報として

・緊張型頭痛に次いで2番目に多い神経疾患

・女性:男性=3:1,年間の推定有病率は約15%.

・有病率のピークは35-39歳,約75%が35歳以前に発症している.

・子どもにも多く見られる(学齢期児童の年間有病率は約7%).

・高齢になると軽快する傾向➜ ≧50歳で片頭痛を発症した場合は二次性頭痛疾患を疑う.

 

Diagnosis

 

ICHD-3が分類している,片頭痛の主要なカテゴリー3つの診断基準.

*片頭痛の前兆(aura)*
auraとは,5-60分で徐々に発症する可逆的な焦点性神経症状.
典型的には閃輝暗点を伴い,まれに片側の知覚障害や言語障害を認める.
発症後,約60分以内に頭痛が続発する(頭痛の最中,間欠期に出現することもある)

 

身体診察:通常は異常所見を認めない.

片頭痛以外を考えるべき所見:発熱,項部硬直,体重減少など

鑑別疾患:他の一次性頭痛(主に緊張型頭痛)や,二次性頭痛(外傷後頭痛など)

二次性を示唆:頭部外傷歴,増悪する頭痛,雷鳴頭痛

 

Genetic Features

 

片頭痛患者における家族歴はよくあることで,遺伝率は約42%と推定されている.

GWASで38個の遺伝子座が同定され,血管・内臓平滑筋関連の遺伝子に集中していた.

しかし別の解析では,ニューロンの遺伝子マーカー濃縮が示唆された.

片頭痛は多因子遺伝病である(家族性片麻痺片頭痛;FHMなどを除く)

 

Pathogenesis

 

片頭痛の病態メカニズムは完全には明らかになっていないが, “三叉神経血管説”が有力

 

三叉神経血管説

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure 1A:三叉神経血管説 Moskowitzら(1984)

痛覚情報の伝導

何らかの刺激で三叉神経ニューロン(終末や軸索)が興奮し,侵害受容伝達が脳幹に投射

→2次ニューロン(三叉神経脊髄路核:SpV)が活性化し,侵害受容伝達が視床に投射

→3次ニューロン(視床:Thalamus)が活性化し,皮質に痛覚情報が伝達(痛みとして自覚)

頭蓋内血管拡張①

何らかの刺激で三叉神経ニューロン(終末や軸索)が興奮

→上唾液核(SSN)・蝶口蓋神経節を介して頭蓋内動脈に副交感神経が流出

→PACAPやVIPが放出されて頭蓋内動脈が拡張

頭蓋内血管拡張②

何らかの刺激で三叉神経ニューロン(終末や軸索)が興奮

→血管作動性ペプチド(CGRP,substanceP,neuroiin A)が放出されて血管が拡張

→神経原性炎症が誘発(血管透過性亢進,蛋白漏出,肥満細胞の脱顆粒)

 

*片頭痛の誘因*
特定の誘因(ストレス,睡眠障害,特定の食品,欠食など)を訴えることが多いが, 想起バイアスや誤認識があるため評価が難しい.

前兆のある片頭痛患者に自己認識した誘因を与えて発作を誘発
→誘因後に発作を起こしたのは3/27人だけ
→誘因の役割は限定的であることが示唆された.

 

Clinical Models of Migraine

 

片頭痛発症に関連するシグナル分子が同定されている

 

発症に関連するシグナル分子

 

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure 1B;発作に関与すると考えられる伝達経路
cAMP,cGMPを介した経路の活性化により,ATP感受性カリウム(KATP)チャネルが開く

 

分子

CGRP,PACAP-38,NO:強力な血管拡張作用を持ち,三叉神経血管系に広く分布

            片頭痛患者がこれらに曝されると発作が発生 ⇔ 健康な人は軽度の頭痛のみ

(GTN静注80%,CGRP静注57%,PACAP-38静注58%に片頭痛発作が誘発)

cGMP,cAMP:これらの分解を阻害する薬剤により,片頭痛患者の≧80%で発作を誘発

GTN:細胞内のcGMPを増加

CGRP,PACAP-38:細胞内のcAMPを増加

 

仮説・立証

イオンチャネル(Kチャネル)による侵害受容性伝達の調節が,発症の最終的な共通経路になっている

→levcromakalim(KATPチャネルオープナー)を投与したすべての片頭痛患者に発作が発生

 

推論

頭蓋内動脈壁の平滑筋細胞でKATPチャネルが開かれて血管が拡張

→血管周囲の三叉神経求心性神経が活性化(以下“三叉神経血管説”参照)

※ K以外の陽イオンの細胞外濃度上昇でも,三叉神経系が活性化・感作されるかも?

 

 

薬剤開発

 

病態解明にともない,標的治療薬の開発も進んでいる.

急性期治療薬:gepant(小分子CGRP受容体拮抗薬)/ditan(5-HT1F受容体作動薬)

 ①Lasmiditan ②Rimegepant ③Ubrogepant

予防薬:抗CGRP抗体/抗CGRP受容体抗体

 ①Eptinezumab ②Erenumab ③Fremanezumab ④Galcanezumab

 

また,PACAP-38やPAC1受容体を標的とした予防薬も開発を進めている.

 

Aura Phase of Migraine

 

前兆期のメカニズムとして,大脳皮質拡延性抑制が考えられている

*大脳皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)とは*
大脳皮質ニューロンの一過性脱分極に続発する電気的抑制状態が, 同心円状に2-3mm/分の速度で周囲に伝播する現象

 

前兆のある片頭痛患者では,血行動態の変化が画像上で記録⇔前兆のない片頭痛では変化なし

しかし,皮質拡延性抑制→三叉神経系活性化(頭痛発症)のメカニズムはわかっていない

仮説

拡延性抑制

→神経細胞のパンネキシン-1チャネルが一過性に開く

→NOやPG,TX(頭蓋内動脈を拡張)が放出

→三叉神経の一次求心性神経が活性化(以下“三叉神経血管説”参照)

 

Treatment

 

治療の原則

・プライマリケア医による開始・維持が理想的だが,診断困難/治療抵抗性は専門医を紹介.

・治療の中心は初期治療薬と予防薬(補助として非薬物療法).

・薬物療法を避けた方がよい患者(妊婦など)では,非薬理学的治療単独で予防.

・非侵襲的なニューロモデュレーション,認知行動療法,鍼治療はエビデンスはわずか.

・理学療法,カイロプラクティック,食事療法を支持するエビデンスはほとんどない.

・オピオイドやバルビツール系は推奨されない(副作用,依存性リスク).

薬の乱用による頭痛のリスクに注意する

*薬剤乱用性頭痛(MOH)*
頭痛が15日≧日ある患者が,片頭痛治療薬を定期的に使いすぎた結果,毎日のように頭痛が発生したり,頭痛の回数が増えたりする状態
対処法:乱用薬を中止し,予防的治療を開始する

 

早期治療

発作の早い段階で投薬するべき

NSAID

 初期治療薬として最も広く使われているのはNSAID

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure 2A:NSAID投与2時間後の痛みの消失率

 

トリプタン製剤

 トリプタン系薬剤は第二選択薬

 あるトリプタンが効かない患者には同種他剤に変更(トリプタンローテーション).

 現在使用されているトリプタン製剤は7つ
 (almotriptan、eletriptan、frovatriptan、naratriptan、rizatriptan、sumatriptan、zolmitriptan)

 ※日本はスマトリプタン,ゾルミトリプタン,エレトリプタン,ナラトリプタン,リザトリプタン

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure 2B:トリプタン製剤投与2時間後の痛みの消失率

 3回の発作治療に失敗した場合,別の経口トリプタンに変更する

 十分な鎮痛が得られない場合はNSAIDと併用(Sumatriptan+Naproxen)

 皮下投与は,投与後2時間時点での鎮痛の割合において最も効果的

 

gepantとditan

 急性期治療において,gepant(小分子CGRP受容体拮抗薬)とditan(5-HT1F受容体作動薬)が注目されている

 FDAはLasmiditan,Rimegepant,Ubrogepantの3剤を承認している.

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure 2C:gepant/ditan投与2時間後の痛みの消失率

 現在は高額で入手困難なため,「NSAIDsやトリプタンが無効,副作用が許容できない/禁忌」に限定して使用

 Lasmiditanはめまいや眠気→内服後8時間は運転制限

 

予防治療

 

片頭痛は再発性の疾患であり,長期的管理には予防治療が必要

目的は片頭痛を治すことではなく,発作の頻度・期間・重症度を減らすこと

 

個々の経過の中で,いつ予防治療を開始すべきかの推奨は国により異なるが,

一般的には,2回≧月頭痛があり,治療しても生活に影響を及ぼす場合に推奨される.

 治療効果判定は約2-3ヵ月後に行い,他剤への変更を検討する.

(モノクローナル抗体は約3-6ヵ月後,ボトックスAは約6-9ヵ月後)

 

よく使用される予防薬

降圧薬(β遮断薬,カンデサルタンなど),Ca拮抗剤(フルナリジン),抗うつ薬(アミトリプチリンなど),抗てんかん薬(TPM,VPAなど)など

※慢性片頭痛にはTPMとオナボタルリヌムトキシンA(ボトックス)の有効性が証明されている

  

CGRP抗体/CGRP受容体抗体

新たな薬剤が登場し,反復性/慢性片頭痛予防に有効性が確認されている.

①Eptinezumab ②Erenumab ③Fremanezumab ④Galcanezumab

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure 3: *Figure3:モノクローナル抗体の反復性頭痛予防奏効率*

奏効率:評価時点※までに1ヵ月あたりの片頭痛日数が50%以上減少した患者の割合

※評価時点 PROMISE-1;1~12週目,STRIVE;13~24週目,ARISE;9~12週目,fremanezumab:1~12週目, EVOLVE-1/EVOLVE-2;1~6カ月目(EVOLVE-1/EVOLVE-2では,galcanezumab 240mgのローディング用量→1カ月ごとに120mg)

 

特徴として・効果発現が早く,有害事象も少ない(最も多いのは紅斑や痛みなどの注射部位反応)

Erenumab , fremanezumab , galcanezumabは他の予防薬で効果がない患者にも有効

しかし他の予防薬(安価)との比較は行われておらず,また長期的な安全性を評価するには,さらなるデータが必要.

 

治療アルゴリズムとガイドライン

引用:N Engl J Med 2020;383:1866-76.
Figure4:治療アルゴリズムの提案

NSAID → 経口トリプタン → 他のトリプタン → ナプロキセン併用

すべてのトリプタンで不十分なら皮下投与(嘔吐で内服できない,頭痛が急激な場合も)

NSAID・トリプタンが無効/許容できない副作用/禁忌 →ditan/gepantを検討

  

悪心嘔吐を伴う発作では,制吐剤を補助的に使用する

予防的治療の開始は,2回≧月の頭痛,治療しても生活に影響を及ぼす場合

 

Migraine in Children and Adolescents

 

小児〜青年期の片頭痛の治療戦略は,成人とは多少異なる(家族の関与が必要なこともある)

 

小児〜青年期の治療

イブプロフェンが第一選択薬→無効の場合は経口トリプタンやナプロキセン併用

TPM,アミトリプチリン,プロプラノロールなどの予防薬はエビデンス少ない

リラクゼーション,認知行動療法などの非薬物療法が有効

  

Conclusions

 

この10年で発症メカニズムの理解が深まり,治療法が開発されてきた.

しかし,メカニズムや薬剤に関する不確実性は残っている
(痛みの正確な起源,発作の性質/特徴のメカニズム,特異的薬剤の正確な作用部位・様式)