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慢性髄膜炎 NEJM

CATEGORY:medical
↻ 2022.02.28/2022.01.31

慢性髄膜炎についてのreview(N Engl J Med 2021;385:930-6.)をまとめました.

ーKey Clinical Points ー

●慢性髄膜炎=『髄膜炎が寛解することなく≧4週間持続すること』
●多くは実質も同時に侵す(髄膜脳炎)
●考慮すべき原因は多彩で,評価・治療法も複雑
●患者数は増加しており(日和見感染症の増加),
 米国におけるクリプトコックス髄膜炎(3400件/年入院)は,細菌性髄膜炎(3600件/年入院)と同程度になった
●新たな病原体が原因として追加され,分子生物学的解析で検出できるようになった
 また,次世代シーケンサーにより病原体を同定することも可能になった

Clinical Manifestations

主な症状

主な症状は頭痛・傾眠・意識変容・発熱

頭痛は一般に持続痛だが,部位・質・パターンは非特異的.

増悪する頭痛(特に発熱・意識障害を伴う)では腰椎穿刺を検討する.

その他の症状

脳神経症状

 難聴・複視なども慢性髄膜炎を示唆する徴候(くも膜下腔を通る際に影響を受ける).

認知機能障害

 認知機能の変化は約40%に生じ,唯一の症状のこともある

 ➜急速進行の認知症(特に免疫不全)では慢性髄膜炎を鑑別疾患に加える.

項部硬直

 急性/亜急性髄膜炎よりも少なく,非感染性ではさらに少ない.

(例:神経サルコイドーシスのreviewでは,65/83人が慢性髄膜炎だったが,髄膜刺激徴候は0人)

その他

 水頭症・頭蓋内圧亢進(特にクリプトコックス髄膜炎),痙攣/脳卒中,神経根症など 

 

Differential Diagnosis

Inflammatory, Neoplastic, Chemical, and Other Noninfectious Causes

背景

居住地域・渡航歴・免疫状態・基礎疾患などをもとに鑑別

診察・検査

肺・皮膚・肝臓・脾臓・関節・眼球・リンパ節の検査により,背景疾患の手がかりを得る

例)ぶどう膜炎あり➜サルコイドーシス・リンパ腫・ベーチェット病などを示唆

その他

関節リウマチやサルコイドーシス自体が髄膜炎を起こすが,日和見感染としての髄膜炎も起こしやすくなる.

神経腫瘍/嚢胞では,化学物質が漏出して化学性髄膜炎となることがある.

髄膜付近での感染や炎症反応は,髄液に無菌的炎症を引き起こして慢性髄膜炎となる.

 

Infectious Causes

地域

診療地域に常在している慢性髄膜炎の原因微生物について知っておく.

結核:流行地域では,髄膜炎診断が完了前に経験的抗結核治療が開始されることが多い.

コクシジオイデス真菌症:米国南西部

ヒストプラスマ症,ブラストマイセス症:米国中西部(オハイオ川,ミシシッピ川流域)

ライム病:米国北東部〜中西部の上部

Cryptococcus gattii:太平洋岸

         免疫不全者における慢性髄膜炎の最も一般的な原因

         免疫正常者にも慢性髄膜炎を起こす

その他

無γグロブリン血症患者,B細胞除去免疫療法患者は,腸管ウイルス性髄膜炎にかかりやすい.

神経外科治療・脳室シャント・耳鼻科手術・糖尿病既往患者では,細菌性/真菌性の慢性髄膜炎を発症しやすい.

慢性髄膜炎の原因不明の大発生では,地域の公衆衛生局に相談することが有効.

(2012年米国,硬膜外注射のグルココルチコイド汚染で,慢性真菌性髄膜炎の集団発生)

引用:N Engl J Med 2021;385:930-6.

 

 

Imaging

頭部画像は,傍髄膜感染症の確認や軟髄膜炎・硬膜炎を区別するために用いる

頭部CT

原因となりうる腫瘤の除外(髄膜炎の原因特定にはあまり寄与しない)

腰椎穿刺前に水頭症を検出するためにも用いる

造影MRI

正常またはT2WI/FLAIRで脳溝と基底核にHIA

造影剤投与後は脳底部クモ膜下腔や髄膜が増強されることがある

DWIで脳溝がHIAとなるが非特異的

硬膜増強は脳髄膜炎を反映し,肉芽腫性疾患やIgG4脳髄膜炎などを示唆

診断における生検部位を選択するためにも有用

引用:N Engl J Med 2021;385:930-6.

PanelA:ブラストマイセス症による慢性髄膜炎患者の造影MRI軸位断
    脳幹部脳底槽(▶),小脳葉溝(*),MCA周囲のくも膜下腔(➜)に増強
PanelB:結核性慢性髄膜炎患者の造影MRI冠状断
    皮質溝(➜),脳幹表面(▶)に髄膜の増強
PanelC:神経サルコイドーシスによる慢性髄膜炎患者の造影MRI軸位断
    前頭葉脳底と小脳テント髄膜に小結節状の造影性病変(➜)多数

 

 

Diagnostic Evaluation and Testing

引用:N Engl J Med 2021;385:930-6.

髄液検査

細胞数は上昇(重度の免疫抑制状態や,腫瘍性髄膜炎では例外もあり)

一般にリンパ球優位だが,結核性・ノカルジア・ブルセラ・真菌性などでは好中球優位

好酸球優位では寄生虫/コクシジウム性髄膜炎を示唆蛋白数は増多するが非特異的

髄液糖低値はサルコイドーシスや髄膜転移,感染性髄膜炎に多く,他では正常

 

・髄液採取量が多いと(10-20ml/回)結核/真菌性髄膜炎の診断感度が向上

・髄液結核菌PCR検査は感度約95%

・結核菌IGRA陰性でも,結核性髄膜炎を除外できない

・数日間で3回腰椎穿刺を行えば,培養困難な菌(真菌・結核菌)の除外に十分

・髄液β-D-グルカンは,培養/抗原陰性患者における有用な補助手段

・十分量の髄液細胞診を2回行えば,腫瘍性髄膜炎の検出には十分

・日和見病原体が同定された場合,HIV や免疫状態の評価が必要

 

 

Newer Diagnostic Aids

現在米国の多くの研究所では,髄膜炎/脳炎の診断に多項目PCR検査が使用されているが,慢性髄膜炎にはあまり有用でない.

次世代シーケンサー(Next Generation Sequencing:NGS)によるメタゲノム解析では,髄液検体に含まれる微生物(細菌・真菌・ウイルス)の核酸を網羅的に検出できる.

Mayo Clinic
診断が不確実な患者(80人)の髄液検体を対象にメタゲノムシーケンスを行った
研究診断的検出率は15%,検出された感染症の半分以上は臨床症状と矛盾していた

慢性髄膜炎における次世代シーケンサーの感度・特異性は不明

画像診断や脳生検よりも安価だが,慢性髄膜炎のルーチン使用にはまだ推奨されていない.

 

 

Brain Biopsy

診断確定のために脳・髄膜生検をすることがある.

慢性髄膜炎患者における脳生検の有用性については,ほとんど情報がない.

生検未実施の37人(MRIで半数に髄膜の異常)を対象とした後方視的単一施設研究(1994)
増強されない領域の生検で診断がついた患者は9%⇔増強部位の生検では80%
診断2回の生検で診断がついたのは3/4例

非診断例であっても,病理学的変化から経験的に治療方針のヒントが得られることがある.

例)肉芽腫的な特徴>血管炎的な異常:神経サルコイドの薬剤の使用

  壊死性肉芽腫:抗結核 or 抗真菌療法の使用

 

 

Empirical Treatment of Chronic Meningitis

非侵襲的検査や脳生検でも診断がつかない場合,経験的に抗結核療法・抗真菌療法・ステロイド治療を開始するのが一般的

結核流行地域では,クリプトコックス髄膜炎が除外されれば経験的抗結核療法は妥当.

ステロイドが併用されることもあるが,結核薬の治療反応性が髄液検査で不明瞭になる可能性も

結核より神経サルコイドーシスが強く疑われる場合は,ステロイド治療を開始することも.

結核がまれな地域において診断がつかない慢性髄膜炎では,4-8週間後に再評価を行いステロイド治療を開始するのが妥当

 

 

Prognosis

原因疾患が多く,予後は一概にいえない.

慢性髄膜炎の転帰を評価するために患者を縦断的に追跡調査した研究はほとんどない.

診断が確定できない慢性髄膜炎患者49人を平均50カ月間追跡調査した研究(1994)
最終的に10人(8人:腫瘍性髄膜炎、2人:ヒストプラスマ髄膜炎)で診断が確定し,
残りの33/39人は疾患が長引いたにもかかわらず良好な経過をたどった.2人は診断前に死亡.

 

 

Conclusions

慢性髄膜炎は,急性髄膜炎と原因・診断過程が異なり,多くの鑑別疾患を含むため診断が困難.

治療には粘り強いフォローアップが必要.

次世代シーケンスや他の技術が適用されれば,より高い診断率を達成できる.